現代では日本国内外問わず、ストリートファッションの象徴としても名高い「スカジャン」。日本の刺繍技術の伝統文化と、米軍文化がミックスされた「スカジャン」は、誕生から80年以上がたった今も人気を博しています。
今回の記事では、その成り立ちや歴史について紹介します。
スカジャンの誕生と発展
はじまりは第二次世界終戦後
スカジャンの成り立ちは、第二次世界大戦後の1940年代後半に横須賀に駐留していたアメリカ軍の兵士たちから駐留記念や帰郷の際の土産として、日本の伝統品の需要が高まっていたことからです。当時は着物や帯、日本人形などもベースボールジャケットを模して日本ならではのモチーフを華やかに刺繍することでお土産として好まれるものを作り始めたのがきっかけです。
これらは当時「スーベニア(土産)ジャケット」と呼ばれはじめ、アメリカなどでは今もその呼び名が浸透しています。シルクに似た光沢感のあるアセテートレーヨン生地、そして職人による刺繍の精巧さからも日本に駐留している兵士のみならず、海外の米軍基地においてもその人気が及んだと言われています。
なお、現在日本で呼ばれている「スカジャン」は発祥の地である「横須賀」と「ジャンパー」を組み合わせた造語である説や、背面によくスカイドラゴンが刺繍されていたことから「スカイドラゴンジャンパー」の略称である説があるのだとか。あなたはどの説が濃厚だと思いますか?
デザインの特徴
スカジャンの種類は大きくふたつに分けられます。ひとつがサテン系の素材によるジャケット、もう一つがベロア記事やキルティングを施したジャケットです。特に後者は中綿によってデザインとしてのアクセントだけではなく防寒性も期待できる役割をになっています。
スカジャンのデザインで一番目を引く部分としてはやはり大きな背面の刺繍ですが、そのデザインのバリエーションの豊かさもポイントとなっています。
○虎、龍などの印象的な動物のデザイン
○アメリカの国鳥でもある鷲
○富士山や五重塔などの日本の名所
○芸者など、日本の文化を象徴する人や物
こうした要素が職人たちによってあしらわれることで、日本のモチーフとアメリカの要素が組み合わさることでファッショナブルな印象を与えてくれました。中でも上記で挙げた中で龍は力強さと長寿、鷹は高い目標を持つことを象徴しているとされており。日本由来の文化ならではの一つひとつのモチーフを大切に理由づける面があらわれています。
日本の刺繍技術
ヴィンテージのスカジャンにも使われている日本の刺繍については、生産地によってその呼び名が異なります。今回の記事では代表的なものを紹介します。
○京都 - 京繍(きょうぬい)
○金沢 - 加賀繍(かがぬい)
○東京 - 江戸繍(えどぬい)、江戸刺繍
京繍や加賀繍は日本の経済産業省が認定する伝統工芸でもあり、いずれも着物や帯、相撲の化粧回しなどに用いられています。
日本刺繍においては絹糸を使用することが主であり、刺繍自体の技法も描くものによって使い分けており、職人の数は昔に比べると減ったものの、丹精込めて長い時間をかけながら一針一針を丁寧に縫い上げています。
実際に初期のスカジャンは、着物や帯を彩る「横振り刺繍」という縫い方が用いられ、横振りミシンによって職人が足元のペダルなどで細かく調節をしながら縫い付けていました。そうしてあしらわれた刺繍は「糸の絵画」とも称されたと言われています。
ファッションとしての地位の確立
発祥した1950年ごろは今ほどスカジャンの知名度や人気は高くなく、派手な服であるという印象が日本では強くありました。質素さやつつましさを重視する人も多かったことから、
実際に「スカジャン」の名前が日本に浸透したのはいつからなのでしょうか。それは1970年代にロカビリーやアメリカンカジュアルのブームがきっかけであるとされており、スカジャンは日本の若者たちの間での一大ブームとなりました。そして、日本経済の発展と共に利用できる選択肢や素材も増え、より精巧な刺繍が可能になったのもこの頃です。もともとの形や伝統的な刺繍のあり方を残しながら、より進化してきたのです。
さらに現代に近い1990年代ではヴィンテージ古着ブームが日本で巻き起こりました。戦後に米兵たちが持ち帰ったスカジャンは、アメリカ古着として日本でも高く注目され、古着屋などでもその価値を高めていきました。
現代において
現代では、スカジャンは世界中の様々なファッションシーンで影響力を持つアイテムとなっています。ハイブランドとのコラボレーションや、セレブリティやインフルエンサーが着用することで、注目度やその人気はとどまることを知りません。ユニセックスなファッションアイテムとしても認知され、性別を問わず幅広い層に支持されており、カジュアルな着こなしからスポーティな装いまで、様々なスタイリングに取り入れられています。
今もなお、発祥の地と言われている横須賀のドブ板通りは「スカジャン発祥の地」として今もスカジャン文化の発信や、スカジャンの刺繍モチーフを取り入れたハンドメイドグッズなど、現代ならではのアレンジも加えてその文化を守り続けています。
今の日本文化ならではの内容を入れ込んだスカジャンなどもあるそうで、こうして文化の流れが変わりながらもスカジャンのあり方が変わらないという点は、文化の結びつきの強さを感じさせます。
「スタジャン」との違い
日本においては呼称が似ているため、同じものだと勘違いしている人も多い「スカジャン」と「スタジャン」。形のベースはいずれもベースボールジャケットではありますが、スカジャンはレーヨンやアセテートといった薄手のサテン生地を使用しており、スタジャンはウールやメルトン生地で、少し厚手の作りです。
スカジャンの名前の由来に関しては前述の通りですが、スタジャンについてはもともとスタジアムで選手の練習や休憩中に着用される「スタジアムジャンパー」が由来であり、刺繍もスカジャンのような日本文化のモチーフではなくアルファベットや数字のワッペンが入れられていることが違いのひとつでもあります。
また、スカジャンは発祥が日本、スタジャンはアメリカが発祥であるという違いもあります。
まとめ
日本の伝統が融合して生まれたスカジャンの歴史は、戦後日本の文化的変容と国際交流を映し出す鏡といえます。米軍文化と時代とともに進化を続けながら、その本質的な魅力を保ち続けています。
現代においても、スカジャンは単なるファッションアイテムを超えて、文化的アイコンとしての地位を確立し、新たな世代に受け継がれていく貴重な文化のひとつです。