日本の昭和時代(1926年~1989年)を駆け抜けたファッションや小物、インテリアや音楽などの文化は、現代においても「昭和レトロ」と呼ばれ親しまれています。
当時の流行が現代においてリバイバルするまでの流れや、当時の流行についてなどを紹介します。
レトロ文化の変遷
昭和時代の中でも1920年代から1950年代までの時代を懐かしむ文化を「レトロ」として、1980年代に一大ブームが巻き起こったのが最初です。
それから2000年代には1960年代から70年代の文化やファッションの懐古が広がりました。それから2010年代においては平成時代に生まれた若者を中心に1980年代のバブル時代前後のファッション、メイクの人気が高まり、さらにシティポップやヴェイパーウェーブなどの海外発信のレトロ文化ブームも起きました。
日本の映画において昭和の下町を舞台にした群像劇「ALWAYS 三丁目の夕日」が公開されたこともブームの火種の一つともいわれています。それからも「ナミヤ雑貨店の奇跡」など、昭和を舞台とした日本のヒット映画が数々生み出されました。
代表的な昭和レトロ文化
主に合板(ベニヤ)のラワン材をはじめとした素材や、鮮やかでポップさを感じさせる色合いが特徴です。家具や食器などにあしらわれた花などのイラスト、そして文房具に描かれたコミック調のイラスト、さらに広告などとしても使われたホーロー看板の温かみのある色使いなどが代表的かつ人気の高い昭和レトロ文化の一部です。語源はガラス質の釉(うわぐすり)を高熱で焼き付けることで仕上げている琺瑯(ほうろう)であり、誕生し始めた1888年ごろから時間が経った現在でも色や文字を保っている物も多くあります。親しみ深さを際立たせるアイテムでもあります。
また、生活に密着する音楽においてはレコードやカセットテープなどもレトロ文化に数えられます。
近年ではカセットテープの文化もリバイバルしています。もともと音楽媒体は蓄音機からラジオカセット、持ち運びができるカセットプレイヤーからどんどんコンパクト化しており、今ではスマートフォンで音楽が聴けるよう軽量化されてきた経緯からかさばるイメージの強かったカセットテープは廃れつつありました。がしかし、カセットプレイヤーのごつごつとしたデザインや重みも再注目されていて、モチーフデザインのインテリアなども多く発売されています。
駄菓子屋や純喫茶も人気
昔懐かしい「フエラムネ」や「モロッコヨーグル」などの日本の駄菓子屋においてあるような小さなお菓子も長く人気を博しています。レトロなパッケージはどこか親しみやすさも感じさせ、駄菓子の絵柄のハンカチや小物なども人気です。
また、昭和のノスタルジーな雰囲気を今も残している喫茶店などは「純喫茶」と呼ばれ、専門で純喫茶を巡る人も多くいます。和洋のレトロ感を組み合わせた店内のあしらいや昭和にタイムスリップしたような雰囲気だけではなく、クリームソーダやホットケーキ、プリンアラモードなどの喫茶店ならではのドリンクやスイーツも人気メニューの一つです。サイフォンなど昔ながらの技術を用いて丁寧に淹れたコーヒー、常連客が談笑する雰囲気など……こういった要素が平成生まれの若者からすると新鮮に映るということもブームの理由とされています。
純喫茶は日本人のみならず海外からの観光客にも人気だそうで、モーニングなども楽しむ方が多いのだとか。
レトロブームの火付け役
もともとの火付けとなったのは前述した「純喫茶」のブームとする説もあり、昔ながらの喫茶店を紹介した本や雑誌の出版からSNSでの写真のアップなど広がっていき、そこからアンティーク要素のブームが広がり、派生して華やかなプリントをされたグラスやポップなレトロ食器への注目が集まったとされています。
特に食器においては、ガラスメーカー「石塚硝子」が昭和時代に製造していたプリントグラスを現代で「アデリアレトロ」として復刻したことでレトロ食器のブームを呼び込んだともされており、ここから派生して電化製品の復刻にも繋がり、当時の雰囲気を残しながら現代にマッチするようにアレンジを重ねた製品は今もなお高い人気を博しています。レトロ食器は明るい色使いが食卓を明るく彩ってくれ、感じさせる懐かしさが幅広い世代に「かわいさ」に繋がるとともに、新鮮な気持ちを届けてくれます。
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レトロ質感の魅力
素材そのものを活かしながら経年の味わいを感じさせることから多くの人達から好まれている昭和レトロの雰囲気。例えば昔ながらのちゃぶ台などは頑丈かつ脚を折りたたむことができるなど、今の時代においてもコンパクトに部屋に食卓を作ることができる利便性を持ち合わせています。
さらに、日本の観光地においても、レトロ文化を強く打ち出しているスポットがいくつもあります。
例えば福岡県・北九州市の「門司港レトロ地区」では、昭和時代の税関や社交場など港ならではの外交の繋がりを感じさせるクラシックな雰囲気の建物が多くあり、歴史探訪としてはもちろんのこと、海沿いのおしゃれなカフェや土産物などを楽しむことができます。
さらに大分県・豊後高田市には「昭和の町」という観光スポットもあります。昭和の雰囲気を色濃く残した商店街には老舗の喫茶店や菓子舗が立ち並ぶ中、新しく参入した店舗もその町が大切にしている雰囲気を取り入れながら、融合しています。中には昭和レトロな雑貨を販売しているお店や、懐かしい「アイスキャンデー」を販売しているお店も。
さらに昭和にタイムスリップしたかのような体験が楽しめる「昭和ロマン蔵」と呼ばれるミュージアムもあります。
アナログであることの魅力
軽量化、利便化が進む昨今ですが、だからこそアナログ文化ならではのあたたかみや質感に魅力を感じる人が増えています。フィルムカメラブームもそうですが、今ではスマートフォンにおいてもフィルムカメラのざらっとした質感が人気で、アンニュイなあたたかさが「エモい」として若者たちに愛されているのだとか。
こうして昭和当時のアイテムやツール、文化などの需要が増えることにより、長く愛される物が増えるというだけではなく、世代を問わない文化の繋がりもより強まります。
例えば今昭和レトロのアイテムを求めた時に、それを親世代、祖父母世代の方も一緒に楽しむことや懐かしむことができるのもポイントです。一見すると不便だと感じることもあるアナログ文化を楽しむことができる、というのもこのレトロブームにおいて見逃せない部分です。
こうして昔からあるものを愛する心持ちは「侘び侘び」の精神にも繋がっているとされています。
現代における昭和レトロの立ち位置
現代においての昭和レトロは、主にインテリアや趣味の部分で注目が高まっています。例えばインテリアにおいては昭和当時の扇風機が復刻販売されたり、フィルムカメラやカセットテープなどのノスタルジックなアイテムが人気沸騰中です。
また、昭和当時の邦楽、洋楽のレコードはもちろんのこと、実際に現代のアーティストにおいても実際にレコード盤媒体でのリリースが行われることもあります。当時の文化に魅力を感じてレコードプレーヤーを実際に家に設置している人も増えつつあります。
こうして昭和文化ならではの雰囲気を暮らしに取り入れ、現代ならではのアレンジも加えながらレトロ文化は巡っていきます。昭和レトロだけではなく平成時代の近代ポップの雰囲気を「平成レトロ」と呼び、2024年度から人気が高まっています。今後の文化のサイクルにも注目ですね。