「箪笥」について


日本の収納家具でも代表的なアイテムのひとつである「箪笥」。

本記事ではその成り立ちから現代へのつながりについてご紹介していきます。



箪笥(たんす)とは


箪笥の成り立ち


箪笥とは、衣類や装身具、小道具などを収納するための木製の家具のことを指します。引き出しや戸棚などからできており、「箪笥」という言葉の語源は、中国において食料を入れるための円形または弓形の竹製の箱からだといわれています。

段によって収納する品物に応じて衣装箪笥、茶箪笥、菓子箪笥などと呼ばれることも。


箪笥の成り立ちは、江戸時代(1603年~1867年)の初期ごろと言われています。それまで庶民は引き出しのある箪笥が必要なほど衣装などを持っておらず、長持(ながもち)や葛籠(つづら)などの箱型の収納家具を利用していましたが、木綿の生産力の向上や生活水準の向上から庶民であっても多くの衣類を持つようになり、箪笥の需要が増えてくることとなります。

葛籠(つづら) - ツヅラフジの蔓で編んだ蓋つきの籠の一種。

長持(ながもち)、長持車(ながもちぐるま) -  主に武家が使用していた、衣類や寝具を収納する大型の箱型の収納。

 

頑丈な家財収納

 

江戸時代は建物がひしめきあっていたため、一つの火事で複数の家屋が被害に遭う事が多くありました。そんな中で家財を守れるための収納が重宝された時代でもあるとされています。実際に1657年には江戸の3分の2を焼いたとされる「明暦の大火」の被害拡大の原因の一つが庶民に普及していた長持車であったとされたことからも、箪笥の需要がさらに高まりました。今も箪笥が「一棹(ひとさお)」「二棹(ふたさお)」……と数えられるのも、この大火がきっかけであったとともされています。

箪笥に使用される桐などは吸水性の高さから消化の際の水を吸収しやすく、火が燃え移りにくかったとされています。ただし桐をはじめ、檜や杉などで、飾り金具を各段につけたりと長持車と比較するとかなりの材料を必要や技術を必要とすることからもまだ貧富の差が大きかった江戸時代の初期においては庶民にとってなかなか手が出しにくいものでした。

 

飾り金具

江戸時代後半までの箪笥は武士などが主に使用していたことから、欅(けやき)などで作られた頑丈さに重きを置いたものであることが多くありました。

 

また、頑丈さに加えて華やかな装飾があしらわれることも。金属板を成型した装飾である「飾り金具」もそのひとつです。縁や扉部分などの補強としての役割と、個性や権威をあらわす装飾としての役割を兼ね合わせていました。

箪笥の普及~定着

 

一般庶民に普及していったのは明治時代

箪笥が実際に全国各地の庶民に定着していったのは明治時代(1868年~1912年)の中期以降から大正時代(1912年~1926年)にかけてであるとされています。工業化が進展して材料や工具などが飛躍的に進歩し、海外への輸出も含め流通の仕組みが全国的に整備されていったためです。

 

こうして庶民にも一般的に定着していくことで、箪笥は「嫁入り道具」とされることも増えてきました。かつては家に女の子が生まれると桐の木を庭に植え、嫁に行く年齢(15~20年後)になった頃に成木となっている桐で箪笥を作っていたともされています。

 

明治時代以降の箪笥は、金庫や財物を収納することもあったことから盗難防止の観点でさらに実用性に重きを置いた進化を遂げていきました。

地方箪笥の発展と特徴

 

こうして徐々に普及、定着をしていくことによって箪笥は産地によって様々な特色を持ち合わせるようになりました。各地域で有名な箪笥の種類も紹介していきます。

 

岩谷堂箪笥(いわやどうたんす)

岩手県で多く作られた和箪笥の一つです。

桐や欅を主な材料として、美しい木目と重厚な漆塗、華麗で豪快な手彫り金具を大きな特徴としています。

 

金具も特徴的な箪笥でもあり、「手打ち彫り」のものと、南部鉄器のものと2種類あり、手打ち彫りによる金具は一つひとつが金槌などを使い打ち出されていました。

龍や獅子といった絵模様の金具を浮き上がらせ、立体的な彫金を生み出しました。

 

仙台箪笥(せんだいたんす)

(写真引用:毎日新聞 - 武家の伝統「仙台箪笥」を現代に生かす家具店の奮闘

https://mainichi.jp/premier/business/articles/20190228/biz/00m/020/011000c)

宮城県・仙台藩の武士が江戸時代末期ごろに内職仕事として制作したのがはじまりだとされています。当時は「野郎型」と呼ばれており、上段に刀、右下に金庫が付き、押し入れの下の仕込み箪笥でした。

 

材料には欅(けやき)を使用し、漆塗りで仕上げており、飾り金具も豪華にしつらえてあるのが特徴的です。現代においてもアンティーク品の人気が高くなっています。

 

庄内箪笥(しょうないたんす)

山形県の酒田市、鶴岡市が主な産地の和箪笥です。

松尾芭蕉も俳句を詠んだ最上川周辺の庄内地方で作られていました。

なかでも鶴岡市で作られていた箪笥は黒漆塗によって仕上げてあるのが特徴であり、「黒染箪笥」と呼ばれることもあるそうです。黒く光る本体に映えるように赤みを帯びた金具が取り付けられることもあります。

 

また、取っ手も特徴的で、通常は「蕨手(わらびて)」と呼ばれる丸みを帯びた取っ手であることが多い中、「角手(かくて)」という、四角張った取っ手もあるそうです。

 

米沢箪笥(よねざわたんす)

庄内箪笥と同じく山形県産の箪笥です。錠前金具が丸い形状になっており、表面には桜や蝶、宝珠などをあしらった美しい彫金が施されています。金具の主張は控えめな印象ではあるものの、強調しすぎない重厚感によって室内にもなじみやすい仕上がりです。

 

格調高さと雰囲気への溶け込みやすさを兼ね備えた箪笥で、上記で紹介した仙台箪笥や岩谷堂箪笥の源流ともいわれています。




上記で紹介したものは地方箪笥のうちの一部です。

 

大正時代の末期からは東京式の桐箪笥が流行したことで、こうした地方で発展した和箪笥はその数を減らしたものの、歴史的・文化価値の高さが認められています。そして今でもなお、さまざまな職人たちがその息吹を絶やさないように繋ぎ続けています。



現代においての箪笥

 

こうして古くから収納家具として親しまれてきた和箪笥は、現代においても嫁入り道具としてはもちろん、様々な人に愛されながら現代ならではの組み合わせでお部屋に空気感を醸し出してくれるアイテムのひとつです。

 

アンティークとしての需要が高まったことや、日本や海外において和の精神やインテリアが見直されていることにも由来します。当時の箪笥が当時の味わいそのままにリメイクされることも多くあるのだとか。

 

当時使われていたように衣装箪笥としての利用はもちろん、現代においては食器棚としての活用などもされており、和室だけではなく洋室であることも多い現代風の家の中にも一棹あるだけで格式高さを演出してくれます。

まとめ



今回は日本の伝統的な収納家具「箪笥」について紹介しました。

江戸時代から現代においてもその技術を繋ぎ続けている箪笥は、私達の生活に和のエッセンスを加えてくれる家具のひとつでもあります。

 

こうして数百年が経っても変わらずに愛されているのは、職人の魂がこもった技術の美しさも起因しているのでしょう。ぜひ触れる機会があれば、実際に現代においても使われて続けている和箪笥ならではの味わいを楽しんでくださいね。

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