古来より受け継がれ、愛されてきた日本家屋。
今も変わらず歴史的な建造物をはじめ、一般家屋にも人気の高い日本建築や伝統的な工法について、これまでの歴史に沿った歩みを紹介していきます。
日本で代表的な建築様式
寝殿造(しんでんづくり)
平安時代(794年~1192年)の貴族の邸宅の造りとして使われることの多かった建築様式です。代表的な建造物だと京都の「平等院鳳凰堂」などが挙げられます。敷地の周囲には土塀をめぐらせ、名前の由来でもある「寝殿」を主人の住居として中心に据え、その東西や北にそれぞれ「対(たい)」をコの字型で配置した造りとなっています。寝殿と対の間は「渡殿(わたどの)」や「透渡殿(すきわたどの)」という渡り廊下で繋いでいます。
寝殿と東西の殿は、前述のとおり主人とその家族の生活する空間であるとともに、様々な儀礼や行事の舞台としても使われていました。自然の美しい景観と調和する庭園には池もあり、池を臨む場所には舟を浮かべるための「釣殿(つりどの)」という家屋が設置されることもあったそうです。
さらに寝殿造りの大きな特徴の一つとして、空間の仕切りや目隠しのためには配置を行事などに応じて変えられるように屏風(びょうぶ)や御簾(みす)を使用していたことが挙げられます。現代でもこの仕切り方は寺社仏閣の内装や、神前式の結婚式にて用いられています。
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・屏風 - 木の枠に小さなふすまのようなものを繋ぎ合わせ、折り合わせた仕切りのこと
・御簾 - 竹ひごを編んで作られているすだれのこと。貴族などの格式高い人との境界としても使われていた。
書院造(しょいんづくり)
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室町時代(1336年~1573年)から近世初頭にかけて、武家などの上層階級で主に用いられた建築様式です。そのため「武家造(ぶけづくり)」とも呼ばれています。
室町時代から安土桃山時代(1568年~1600年)にかけて発展していき、江戸時代(1603年~1868年)に本格的に広まりました。平安時代までの貴族社会から、武士社会へ移り変わったことから争いを調停したり、交渉活動を行うことも重要とされたことから、公的な対面や交渉などを行うための客間でもある「書院(しょいん)」が設けられ、その中には仏具などを置く神聖な「床の間」や文具等を置く「違棚(ちがいだな)」といった座敷飾りも備えられ、格式を重んじた造りとなっていました。
平安時代に広まった寝殿造と比較すると襖や障子による間仕切りが発達したことも特徴の一つです。用途に応じて部屋を分けており、床には畳が敷き詰められています。
さらに、水を使わず、砂や石だけで自然の風景を表現した「枯山水」も書院造ならではの日本庭園です。質素さの中に奥深さや趣を見出す「侘び寂び」の精神をふんだんにあしらった造りは、現代の建築にも強く影響を与えています。
床の間の位置関係によって身分の序列の確認をしていた書院造の伝統は、現代日本においても身分の高い人が上座に座り、身分の低い人が下座にすわるという「席次」の文化にも通じています。
・床の間 - 和室の壁面に設けられる、周囲よりも一段高くなっている部分。正しくは「床(とこ)」。
・違い棚 - 棚板を段違いに取り付けた棚のこと。
西洋の文化を取り入れた近代建築
江戸時代幕末から明治時代(1868年~1912年)にかけて、日本の西洋化はめまぐるしい速さで進んでいくこととなります。西洋の文化を積極的に取り入れる中で、ヨーロッパなどの建築技術を採用した洋風建築の普及も進んでいきました。
明治初期は日本古来からの木造建築に西洋の建築ならではのデザインをあしらうなど、和洋折衷の「擬洋風建築(ぎようふうけんちく)」や「洋風木族建築」という造りが広まっていました。日本の洋風木造建築で代表的なものは長崎県にある「グラバー邸」です。
さらに「鹿鳴館(ろくめいかん)」などの社交場や造幣局、駅などの重要な施設は、石やレンガを主流とした、頑丈かつ本格的な洋風建築が採用されることが多くありました。これまでの建築史の歩みを踏まえた上で、新たな文化を取り入れた明治時代ならではの建築様式です。
日本建築の特徴
木材を主流とした伝統工法
伝統的な工法においては木ならではの特徴をいかした「木組み」という技術を用いており、大きく分けると以下の構造を中心に組み合わせています。
まずは柱の根本を束石の上に乗せる工法である「石場立(いしばだて)」、木材同士を水平に貫通させ、楔によって固定する「通し貫き」、釘の代わりに使う木製の栓「込み栓」、そして格子状の枠に土を塗り重ねた「土壁」。これらを織り交ぜることで地震などが起きた際にも揺れを分散させ、土壁によってより粘り強い家をつくり上げています。
なお、日本で最古の木造建築物は奈良県にある法隆寺であるとされています。法隆寺自体は推古15年(607年)に完成したといわれており、平成5年(1993年)には建造物群とともに「法隆寺地域の仏教建造物」として世界文化遺産に登録されました。法隆寺にある「五重塔」はおよそ1300年の長い歴史を経てもその姿を保ち続けています。
ヒノキなどの木材は伐採後の100~200年で少しずつ強度を増し、1000年が経過するまでの強度はさほど変わらないと言われており、日本の古民家や寺社仏閣の多くもこの建築方法を採用しているため、古来から現代まで、長く愛されている建物が多いのです。
耐震対策だけではない 木造の魅力
木造の魅力は、地震への耐久力だけではありません。第一には自然の素材だからこその肌ざわりや香りです。やわらかな踏みごこちは暮らしの上での心地よさにも繋がります。
さらに、木は調湿性も期待できる建材です。空気中の湿度が高い時には水分を吸収し、湿度が低い時には水分を放出するという調湿作用を持っており「木は呼吸する」と称されることもあります。この特徴から、建物に利用することで室内の湿度の変動が小さくなるため、空中に浮遊する菌などを減少させ、より快適に過ごすことができるのです。
さらに、木材は冷暖房などの技術が発展するより昔から長く使われてきた素材です。コンクリートや金属と比較すると熱伝導率が低く、断熱性が高いといった特徴も持ち合わせています。木材自体が多くの空気を含んだ素材であるため、外気の影響を受けにくいとされています。そのため、夏は涼しく、冬は温かく過ごすことができます。
素材の加工がしやすいという点もポイントです。デザインの自由度も高いため、住宅は勿論のこと、家具などにもこだわりを反映しやすい点も大きな魅力のひとつです。
まとめ
本記事では、日本の建築様式について、それぞれの特徴や魅力を紹介しました。
日本の建築は、古来から現代までの様々な歴史と共に進歩しながら、素材そのものが持つ美しさや機能性を深く、大切に守ってきました。
現代においても伝統工法によって住宅が建てられることも多くある日本の建築技術。今私たちの生活にはもちろん、今後の生活にも欠かせない技術の一つとして、これからも受け継がれていきます。